【新製品レビュー】Roland JUPITER Xシリーズ実機チェック!
JUPITER・・・ローマ神話の中でも最高位の主神の名を冠した、ローランドの歴代モデルの中でも輝かしい存在感を放つシンセサイザー。中でも「JUPITER-8」は、アナログ・ポリフォニック・シンセサイザーを代表する歴史的傑作機です。
数年前に発売された「JUPITER-50」及び「JUPITER-80」は、当時のJUPITER-8の「多彩な音色&ポリフォニックによるステージパフォーマンス用キーボード」という側面を発展させた製品でした。アナログシンセに留まらず、多彩な音源を存分に弾きまくれるモデルではありましたが、JUPITERに「純粋なシンセサイザー」というイメージを持っていた方にとってはちょっと違和感があったのではないでしょうか。
JUPITER-X / JUPITER-Xm
そんな中、突如発表された新たなる「JUPITER」は、単純明快、原点回帰。シンプルでマッシブなバーチャル・アナログ・シンセサイザーとして、世界中のシンセ愛好家の要望に応えての登場です。
フルサイズの61鍵キーボードを搭載し、往年のJUPITER-8とほぼ同サイズ&重量(!)の振り切っちゃったスタイルを採用したJUPITER-X。そして、その音源モジュール版がJUPITER-Xmというラインナップとなります。
・・・ヤバくないですかJUPITER-Xのルックス&存在感。サイズ感、カラフルなボタンにアッパー/ロワーのパッチNo.表示の7セグLEDディスプレイ・・・完璧です。
今回、JUPITER-Xはまだ外観のみの試作品だったため、同一音源を搭載するJUPITER-Xmをチェックしてみました。
Design
まずはその外観。「音源モジュール版」と聞いていましたが、鍵盤付いとるやないすか(笑)。しかも、新設計のミニ鍵盤だとか。
ローランド初のミニ鍵盤シンセとして話題となったJD-Xiと比較すると、奥行きが大幅に長くなったことが判ります。普通に弾ける鍵盤です。
小さいし、スライダーじゃなくてロータリーノブだし、ボタンもカラフルじゃないし・・・と、JUPITER-8と比較すると独自色の強い印象ですが、サイドのアルミパネルと金属質なパネルに放熱スリット、そしてオレンジ色とポイントを抑えており、ちゃんと一目見てJUPITERだと思えるデザインではないでしょうか。
ぶっちゃけると、よりJUPITER-8純度の高いJUPITER-Xはデザインに凝りすぎて少々デカ過ぎ&重過ぎ(16.9kg)・・・半ば意地すら感じてしまうのですが(笑)。正直、もっと小さく作ることもできるはずですが、オリジナル同様の金属製筐体でこのサイズ、理屈を超えた説得力を感じます。設置場所、移動手段、腕力全てにおいて余裕がある方であれば勿論JUPITER-Xですが、実質的に広くオススメできる現実的なモデルがこちらのJUPITER-Xmですよね。コンパクトで持ち運びし易いサイズに効率的なパネル配置の音源モジュール・・・だったらサウンドチェック用に鍵盤やスピーカーも付けちゃえ、と。・・・こちらもいい感じにラフで面白いです。
前述の放熱スリット、実際は熱じゃなくて音を出します・・・!
ボディサイドにはウーファーが。さすがにキックやシンセベースの重低域の再生には物足りませんが、中高域は非常に綺麗に、そこそこの音量で鳴ってくれます。便利なだけでなく、スピーカーの振動が僅かに指先にも伝わってくることで、アコースティック楽器を演奏している様な心地よさも感じることができますね。ちなみにこの内蔵スピーカー、大きいほうのJUPITER-Xにも搭載されています!
Synthesizer
肝心の音源をチェック。JUPITER-Xシリーズも、ローランドの自社開発音源チップ「BMC」を搭載し、この上でモデリング音源を動かす構造です。発売当初の状態では、6種類のモデリングされた音源が「MODEL BANK」にプリロード。好みの機種を選んで音作りを進めるスタイルになります。その6種類とは・・・
- JUPITER-8
- JUNO-106
- JX-8P
- SH-101
- XV-5080
- RD-700GX(ピアノ)
・・・という、王道からちょっと意外な所まで、なかなか面白いチョイスです。バーチャル・アナログ/PCMの区別なく、柔軟なプログラムを走らせられる音源チップの恩恵ですね。当時「リアルで便利な万能図書館音源」的立ち位置で、1990年代の音楽制作現場を席巻したXV-5080が「再現」される立場になっているのが、何ともいえない気持ちになりますが・・・。
既にBoutiqueシリーズで実績のあるモデリング音源も含め、どれも特徴が良く出た「ニヤリ」度の高いサウンドです。これは是非店頭の実機で確かめて頂きたい部分です。音源は最大で4パートの同時使用が可能、4マルチティンバーの音源としてはもちろん、レイヤー/スプリットで様々なモデルを組み合わせた非常に贅沢な音作りも行えます。
もちろん、内蔵モデルについては発売後のアップデートにより追加可能、現状ローランド製品のみですが、やはり各社の有名シンセモデルの追加が期待されますね。
ちなみにフィルター部のみ、Rolandタイプの他M○○g、Seq○○…タイプが予め用意されているので、初期状態でもそれっぽい音は普通に作れますからご安心を。細かすぎて伝わらないレベルのニュアンスを追求する方は、今後のモデル追加をお待ちください。
やはり、パラメーターも面白いです。アナログシンセの不安定なピッチを再現する「Pitch Drift」パラメーターだけでなく、「CONDITION」というパラメーターも。回路レベルでのモデリングにより、個々のパーツの経年変化をシミュレート。修理や買取で持ち込まれた、未調整のポリシンセの挙動がそのまま現れており悶絶。楽器としての実用性には疑問がありますが、こういう遊び心は大好物です。
I-ARPEGGIO
ここまでなら、「Boutiqueシリーズのノウハウを結実させた、よく出来たアナログモデリングシンセ」でレビュー終了となるところですが、まだまだ終わりません。
このモデルの一番大きな特徴と言えるのが、JUPITER-Xシリーズで初めて搭載された「I-ARPEGGIO」というアルペジエイター。これは、ノートやリズム、ベロシティ等の演奏情報をAIが解析、最適なパターンを順次呼び出していくというものです。例えば同じ和音でも、弾き方によって様々なフレーズが飛び出します。少々意地悪な演奏をしても、トリッキーながら音楽的に破綻しない範囲でフレーズが変化。予想外のフレーズが、曲作りにもインスピレーションを与えてくれるのではないでしょうか。
KORGのKARMAエンジンにも似た感じですが、リアルタイムでフレーズを生成するのではなく、あくまで内蔵されているパターンの呼び出し/組み合わせによる点が異なる部分です。それにしてもこれは面白くてクセになります。ちょっとだけ動画を撮ってみたのでご覧ください。
更に裏でリズムを鳴らしたり、音色を変えたり・・・いつまででも遊んでいられそうな中毒性がありますね。
I/O
JUPITER-X/Xm共に、リヤパネルは至ってシンプル。モデル名は無く、ローランドのロゴが入るのみ。
JUPITER-Xは電源内蔵で3芯のACインレット仕様、XmはACアダプターの外部電源仕様となりますが、その他の端子類は完全に同一仕様です。USBオーディオ/MIDIインターフェイス機能に加え、USBメモリー端子も装備しています。
アウトプットはステージでの使用も想定し、XLRバランス端子も装備。コンボジャックのオーディオ入力も用意されており、現状では外部信号のフィルタリング等に使用できます。しかし「MIC IN」と表記されている以上これはもう、VP-330ボコーダーモデルの追加は既定路線ですよね(笑)。
往年の名機のモデリング音源という性質上、現段階ではJUPITER-Xならではの「未知の音」を創り出す様なチャレンジングなシンセサイザー音源ではありませんが、その音のクオリティは勿論デザイン、演奏性、そして拡張性を高いレベルで備えた製品という印象を受けました。また今後MODEL BANKに追加されていうであろう音源次第では、全く異なる側面を見せてくれるポテンシャルも秘めています(V-Piano音源だって動かせる音源チップですから!)。
加えて、いつまでも遊んでいたくなるI-ARPEGGIOが素晴らしい!このアルペジエイターを活用するためにJUPITER-Xシリーズを導入するのもアリではないでしょうか。
現時点ではJUPITER-Xmが2019年11月頃で15万円前後、JUPITER-Xが2020年春頃で25万円前後での発売を予定しているとの事です。新たなるJUPITER神話が紡がれるそのときまで、首を長くしてお待ちください!