DTMの音作りはモニター環境の改善から。部屋を自動で良い音にするスピーカーキャリブレーションに対応した「NEUMANN KH 80 DSP」で環境改善!
音楽制作において、音を聞く環境(モニター環境)の整備はとても大切です。悪いモニター環境で音づくりをすることは、時間がずれた時計を見ながら行動するようなものです。
モニター環境をグレードアップする手段として、機器そのもの(スピーカー)をグレードアップする方法と設置環境をグレードアップするというふたつのアプローチがあります。設置環境をないがしろにスピーカーだけグレードアップしても良い音にはならないのです。設置環境とはつまり、スピーカーから出た音の響きのコントロールを意味しています。
これらの要素を同時に解決する方法として主流になりつつあるのがスピーカー・キャリブレーション。スピーカーから出る音をDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)処理によって補正し、設置場所にあわせた音に調整するシステムです。
本記事ではスピーカー・キャリブレーションに対応したモニタースピーカーとしてNEUMANN KH 80 DSPとその周辺機器を紹介しています。
<KH 80 DSPとMA 1>
■NEUMANNのキャリブレーション・システム
NEUMANNはマイクメーカーとして有名ですが、モニタースピーカーやモニターヘッドホンの分野でも着実にシェアを伸ばしています。1928年にドイツ・ベルリンで創業したメーカーで、U 87 Aiを筆頭に数々のスタンダードマイクを販売。1991年よりSENNHEISERグループに、2005年にはスピーカーブランドKlein + Hummelがグループ企業となり、2011年にパワードモニタースピーカーKH 120を販売しました。
大型スタジオ向けのスピーカーが多かったNEUMANNですが、自宅録音ユーザーにとって革新的な製品となったのがKH 80 DSP。モデル名の通りDSPを内蔵した製品で、DSP処理によりデジタル領域での音質調整を実現。LANコネクターによる外部制御を搭載し、別売りのMA 1測定用マイクとパソコンを用いることで、スピーカーキャリブレーションに対応します。
<MA 1測定用マイクとソフトウェア>
他社のスピーカーキャリブレーションシステムはパソコンのソフトウェアで行われるものが多いのですが、パソコン内部でキャリブレーションを行った場合は、利便性を大きく損ねます。例えば外部マスターレコーダーを使用する場合は、録音の度にキャリブレーションをオフにする必要があります。オフになってしまえば、マスターレコーダーに録音中はキャリブレーションされた音を聞けないということになり、不便です。
これに対しNEUMANNのキャリブレーションシステムはスピーカーの中でキャリブレーションを行います。スピーカーはすべての機器の最後に位置するため他の機器の接続に関わらず、常時キャリブレーションを有効にすることができ、オンオフ操作も不要です。
<MA 1測定用マイクとソフトウェア>
使用にあたっては測定が必要です。パソコンとイーサネットハブ(別売)、KH 80 DSPをLANケーブルで接続し、MA 1測定用マイク(別売)をオーディオインターフェースに接続。スイープ信号と呼ばれる測定用の信号をスピーカーから出力し、MA 1マイクで測定を行います。慣れていれば15分程度の所要時間。完了すると、スピーカーから出てくる音が、測定結果をもとに部屋にあわせた最適な特性に調整されます。
<KH 80 DSPの背面にはイーサネットコネクターがある>
例えば低域がブーミーな部屋では、低域を抑えて出力されます。また、高域が吸収されて弱くなる部屋であれば、高域が強く出力されます。キャリブレーションの効果は素晴らしく、一度経験すればキャリブレーション無しには戻れないでしょう。
<測定は、画面の指示(英語)にそってマイクを設置して計測するだけ>
キャリブレーションがあればどのスピーカーでも良い音が得られるかというと、そうではなく、スピーカーの基本性能が高い必要があります。KH 80 DSPは4インチウーハー/1インチツイーター搭載、120W+70Wの高効率アンプを備えた2ウェイパワードモニタースピーカーで、特筆すべきはサイズを超えた低音再生能力。4インチとコンパクトで見た目は心配ですが、5インチウーハーのモニタースピーカーに勝るとも劣らない高い低域再生能力を誇ります。
<4インチウーハーでコンパクトなKH 80 DSP>
KH 80 DSPの周波数特性は57Hz〜21kHzとなっています。57Hzというのはかなりの低音で、サイズの大きな5インチのモデルでも57Hzまで再生可能なモデルは多くありません。3D形状のキャビネットやロングスロー・バス・ドライバーなど、NEUMANNの独自技術の数々により、高い低域再生能力を実現しています。
また、スピーカーの音がどの方向に飛んでいくかという「指向性」についても、MMDウェーブガイドという独特の形状によって音が飛ぶ方向が緻密にコントロールされています。水平方向は広く、垂直方向は狭い特性を持っているため、音を聞くのに最適な場所(スイートスポット)が左右に広く、作業効率を高めてくれます。
例えば、左側の外部機器を操作しながら、右側のキーボードを弾きながらといった場合でも、特性が保たれたサウンドを聞くことができます。一方で垂直方向は狭くなっているので、机やミキサー卓など、置き場所の反射の影響を受けにくくなっています。
<ツイーターの周囲のくぼみが指向性を決定づけるMMDウェーブガイド>
キャリブレーションありの状態がお勧めですが、キャリブレーションなしでも使用可能。背面スイッチの設定によりキャリブレーションが無効となり、本体の音質調整スイッチが有効になります。
<本体のみでも音質調整が可能>
■KH 80 DSPのポテンシャルを高めるKH 750 DSPサブウーハー
前述の通りKH 80 DSPの再生能力が高いといっても57Hz以下の低域を再生することはできません。EDMなど超低域を多く扱う音楽が多い場合や、仕事でミキシングやマスタリングを行う場合、劇伴や効果音など、ワイドな再生能力を求める場合はサブウーハーKH 750 DSPを追加すると良いでしょう。
<机の下にあるスピーカーがサブウーハーKH 750 DSP>
サブウーハーはメインスピーカーの低音を補完する目的のスピーカー。KH 750 DSPはNEUMANNのスピーカーに最適化されたサブウーハーで、かつ、DSPを内蔵しています。KH 80 DSPとあわせてLANケーブルで接続し、一体のスピーカーシステムとしてキャリブレーションを行うことができます。
<KH 750 DSPの背面。KH 80 DSP以外にも様々なシステムに対応できる>
KH 750 DSPはKH 80 DSPで再生できない57Hz以下だけを再生するわけではなく、それ以上の低域帯も再生されます。KH 750 DSPが低域を再生してくれることで結果的にKH 80 DSPの再生能力に余裕ができ、中域〜高域の再生能力がさらに高まり、とても余裕のあるサウンドになります。KH 750 DSPサブウーハーを導入することで、自宅でも大きなレコーディングスタジオさながらのサウンドを得ることができます。
注意点もあり、383 x 330 x 383 mmと大きく、重さが19.5kgあります。超低域再生によって置き場所そのものが振動しますので、アパート等の集合住宅での設置は難しいでしょう。壁や床がしっかりした置き場所が確保できるかどうか、導入前によく確認しましょう。
<KH 80 DSPとキャリブレーションでスタジオのような音を目指そう>
以上のように、KH 80 DSPとMA 1を用いることで、キャリブレーションありのモニター環境を自宅でも手に入れることができます。良いモニター環境を手に入れると、自分の音楽制作クオリティが向上するだけでなく、音楽を聞くだけでも楽しいものです。ソフトウェアやプラグインの充実だけでなく、それらを聞くためのモニター環境をグレードアップしてみてはいかがでしょうか。