オノ セイゲン、イベント・レポート / 2016.SUMMER
オノ セイゲン/ SEIGEN ONO。
その名は、様々な異なる “顔”で受け止められる。
・坂本龍一、清水靖晃、近藤等則、Arto Lindsay、John Zorn、David Sylvian等をはじめとする内外の先鋭的アーティストの作品群に関わる、敏腕レコーディング/ミックス・エンジニア。
・日本を代表するマスタリング・エンジニア。
・DSDレコーディングと昨今のハイレゾ・ミュージック・シーンにおける強力なオピニオン・リーダー兼、推進者。
・アートシーンに“音”で関わる、音響空間デザイナー。
そして、
・伝説的名盤『Comme Des Garcons』シリーズをはじめとする数々の名作アルバム、バレエ/ダンス用の音楽作品、数度に渡るMontreux Jazz Festivalの出演等で知られる作曲家/ミュージシャン。
その“ミュージシャン” オノ セイゲンのはじまり、1984年度デビュー作品、『SEIGÉN』。
長らく“幻”といわれていた同作が2016年、遂に再発されました。
そして、その発売記念イベントが、同7月、東京お茶の水の『café 104.5』にて開催されました。
今回は、イベントのリハーサルより会場入り。
そこで目の当たりにした、オノ セイゲン、その仕事。
ツールのセレクト。
人の耳に届ける音。
場の空間演出。
ひとりの人間が見せた、様々な“顔”。
以下、レポートさせて頂きます!
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ゆったりとした心地良い広がりを感じさせるスペース。
オノ氏の指示の元、粛々と設営、リハーサルが進められました。
開場後、満席となったイベント冒頭、2015年に発表されたベース奏者Pearl Alexander(パール・アレクサンダー)との競作アルバム『Memories of Primitive Man』からの楽曲を オノ氏、パール氏、2人の生演奏ライブで披露されます。
本作品は、本来、多重録音による制作スタイルの作品集ですが、ライブでは、 DSDによるバックトラック再生 + オノ氏によるE.ギターとパール氏によるウッドベース、加えて二人のボイスが織り重なる形で演じられます。
そのライブで、演奏用バックトラックのDSD再生用途にセイゲン氏が選んだ、このスピーカー。
『MANGER / ZEROBOX 109IIe LE』。
速く、正確に、どこまでも歪み無く、音を“そのまま”描き出す、抜きん出た一品。
一見すると、隣に配置されたPA用スピーカーよりもひと回り小さいスピーカー・サイズからはまったく想像ができない、見事なまでの音のフィールドを作り出します。
ちなみに、MANGER下のサブウーハーは、会場常設の品で、今回のイベントで用意したスピーカー群は接続していません。(=鳴らしていません。)
MANGERスピーカー、それのみで、“スタジオ品質のまま”の音を 会場に再現してゆきます。
そして、ライブで使用された、収音ツール。
近年のオノ セイゲン氏のシグネイチャー・ツールのひとつ、DPA社マイク群が、楽器、ボイス等にセイゲン氏自らの手によりスタンバイされます。
DPAマイクが捉える生演奏のサウンドは、MANGERとは別に用意されたEV社のPAスピーカーから拡声されました。
セイゲン氏のギターから紡ぎ出される、研ぎ澄まされた、決して饒舌にならない、ある種“サウンド・エフェクト”的な音の連なり。
パール氏の、抑制されつつも自由に表現されるウッドベースの響き。
2人のインプロで放たれる生の楽器音 + EVから拡声されるPAサウンド + MANGERからの“そのままの”バックトラックの再生音。
3種のサウンドが行き交う、ある種、非常に実験的な音響空間が創出された、稀有なライブとなりました。
続く第二部、録音、ミックス、そしてマスタリング・エンジニアとしてオノ氏が関わって来た様々な作品群をオノ氏の解説付きで聴く、という豪華一大試聴会。
MCは、オノ氏と30年以上のお付き合いとなる友人でもある、音楽評論家・佐藤英輔氏。
オノ氏の関わってきた作品のその背景にまで話は及びます。
穏やかなオノ氏自らのトークで語られ、披露される、普段聴くことのできない貴重なトラック、様々なジャンルの音源群。
しかも全て、5.6MHz DSDフォーマットによる超高純度な素材そのものを マスターレコーダー『TASCAM / DA3000』からそのままダイレクトに再生する、という試み。
そして、ここでも活躍するのは、『MANGER / ZEROBOX 109IIe LE』。
生まれながらにして40kHzの超高域再生を実現している、生粋のハイレゾ対応である同機。
“スタジオ”の鮮度そのままに、オノ氏の意図するところ、そして音楽家の“凄み”を 会場に再現してゆきます。
そして、その場に居合わせた誰もが感じとる事が出来た、 “音”を選ぶ、空間に“音”を配する、オノ氏の音響空間プロデュースの妙。
例えば、MANGERスピーカーに施した、スピーカーの設置に関わる少しばかりの機微。実は、左右均一にはならない店舗空間の音響特性にあわせ、リハーサル時、オノ氏は左右のMANGERスピーカーの仰角をほんの僅かに非対称に配置していたのです。
更に。
先の演奏された楽器群に加え、会場中央付近、MANGERスピーカーの傍にセットされた2本の『DPA / 4006A』。
無指向性のマイク達が向けられる、会場の空間、会場そのものの響き。
そして、その『4006A』、及び楽器にセットされたマイク群の信号が向かう先。
『GRACE design / m801』マイクプリアンプ。
繋がる先は、PA席横にセットされた、3台の『TASCAM / DA-3000』。
※下方のEQ群は、『DA-3000』とは無関係のPA用機器です。
当日のイベントの模様は、この3台のカスケード接続された『DA-3000』により、5.6MHzのDSDフォーマットでマルチトラック録音されていたのです。
そして、この後ミックスされる本編は、DSD配信でプログラムとして放送される予定であるとのこと。(別枠参照)
どこまでも繋がる、アクションの連鎖。
オノ セイゲン、その仕事が凝縮された、今イベント。
その全てがハイクオリティ。
かつ、その全てに高いレベルの感性が宿ります。
驚くべき才人、オノ セイゲン。
そして、セイゲン氏は、今後も飄々と我々の先を行き続けるのです。
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【当日の使用機材、追記】
オノ セイゲン氏使用のE.ギターは、日本のカスタム工房『Art Tech』製TEタイプ。
アンプは、『VOX / AC15』。
その上にハーモナイザー『digitech / IPS 33B』がスタンバイされています。
収録用とは別にスタンバイされた、DSD再生用『TASCAM DA-3000』に繋がるフェーダーは『Umbrella Company / The Fader Control』。インプット、アウトプット、両対応可能な高品位卓上フェーダーです。
今回、MANGERスピーカーを駆動したパワーアンプは、国産のデジタル・アンプ『Soul Note(現Fundamental) / sa4.0B』。
このボディサイズで、4Ω/115Wステレオ駆動。MANGERの求める素早い反応動作に応えます。
そして、接続に使用された、オヤイデのスピーカーケーブル、電源タップ群が、確かなアウトプット伝送を支えました。
(レポート:沼田 進)
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★当日のイベントの “ディレクターズカット版”、DSD配信放送決定!
9/21(水) 21:30-23:00 再放送→9/24(土)17:00-18:30
https://primeseat.net/ja/programs/radio/sdm_live_recording/
ミュージシャン/録音エンジニアのオノ セイゲンが主宰する
「SDM & Live Recording」がプロデュースの番組。
新作『メモリーズ・オブ・プリミティヴ・マン』(ソニーミュージック)1984年発表のファーストアルバム『SEIGEN』(JVCレーベル)の再発を記念してブルーノートジャパンが運営する cafe 104.5でのイベントから、自身の作品だけでなくオノ セイゲンが携わってきたアーティストたちの作品を5.6MHz DSDでかけます。オノ セイゲン、坂本龍一、アート・リンゼイ、ヴィニシウス・カントゥアリア、今井美樹、畠山美由紀、甲田益也子(dip in the pool)、ショーロクラブ etc.。
音楽評論家の佐藤英輔氏をMCにむかえ、オノ セイゲンとの制作裏話や、「スペックではなく音楽を聴く」ということにも焦点をあて、オーディオファンでなくとも、誰にでも判りやすくハイレゾ、DSDの話を解説。
番組は、ブルーノートジャパンが運営する、cafe 104.5での「Music Voyage : MINI LIVE & TALK SESSION 7.26」で収録。当日は予想通り、トークが盛り上がり肝心の音楽をフェードアウトしなければなりませんでしたが、DSDストリーミング放送では、はしょった部分も番組時間枠ぎりぎりまで流します。
※日本ではインターネット放送は、現時点でまだ日本レコード協会や芸団協との合意がとれていないため、レコード会社が原盤を保有するCDやハイレゾの音源は、インターネット放送ではかけられません。今回は特別に各レコード会社から原盤使用許諾を得ての放送です。