音楽監督:坂本龍一/映画『レヴェナント:蘇りし者』試写+トーク&ピアノ演奏レポート!
映画音楽。
映像表現の“影”であり、かつ、シーンの空気、人々の喜怒哀楽さえも語ってしまう、大きな“要素”。
そして、日本人として、映画音楽で初めてオスカーを受賞したその人。
坂本龍一さん。
その坂本さんが、復帰後に手がけたワークは、2本の映画音楽。
1本は、日本の山田洋次監督作品、「母と暮らせば」。
そして、もう1本。
アレハンドロ・G・イニャリトゥ(Alejandro G. Inarritu)監督、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)主演、
「レヴェナント:蘇りし者(The Revenant)」。
この「レヴェナント」にて、イニャリトゥ監督は、2年連続のアカデミー監督賞を、ディカプリオ氏は“初の”主演男優賞を受賞。
映画のストーリーは、1800年代初頭のアメリカ北西部を舞台とした、極寒の自然の中でのサバイバル愛憎劇。
その実話ベースの壮絶なストーリー、各俳優陣の迫真の演技もさることながら、抜群のカメラワーク(本作は、アカデミー撮影賞も受賞)による“大自然の描写”が、本作のもうひとつの見せ場。
坂本さんも「自然と人間の葛藤」が本作のテーマではないか、と語ります。
そして、その音楽。
坂本さんによる、印象的なフレージングは、本作においても健在ながら、その存在感はあくまでもナチュラル。語弊を恐れずにあえて言うのであれば、それは、画面に溶け込む“要素”としての音楽。
“効果音”と“音楽”が渾然一体と化した、映像のための“音”表現。
そして、坂本さんの要請を受け、主にエレクトロニックな処理を担当したというAlva Noto = カールステン・ニコライ(Carsten Nicolai)さん、更には、もう一人の作曲家としてクレジットされたブライス・デスナー(Bryce Dessner)さんの存在。
そのチームが臨んだ、天才イニャリトゥ監督の音世界の構築作業。
坂本さん曰く、
「音と音楽に対するセンスがムッチャクチャいい。」イニャリトゥ監督。
「その精度の高い耳で」、「フレーム単位の修正はもちろん」、色々なリクエストが飛んで来たそうです。
その一例。
「今回は、長きに渡って足掛け6ヶ月程の作業中、アレンジもいくつかのバージョンを制作しました。すると、監督から“このストリングスのシンセサイザーは、7月の時点のあのアレンジの立ち上がりが良かった。”と3ヵ月後に言われて(笑)一事が万事そうした感じで、参りました(笑)」
イニャリトゥ監督は、映画監督以前には、ラジオDJを勤めていたこともあり、音楽への造詣、音へのこだわりも並外れていると。
そして、その“音”への豊かな感性、あるいは幅広いフレキシブルな自由さは、“既成の楽曲の使用”に関するオスカー部門賞のレギュレーションを超過、ノミネート選考から外れる結果をもたらしました。
しかしながら、完成されたその“音”世界の圧倒的な完成度。
「音楽と効果音の境、現実音の境がよく判らない」事を狙ったという今回の作業。
【音楽~情景描写~音効】の境の喪失。
主張する事無く、それでも、人々の耳から脳に溶け込む、絶対的な音効果。
荘厳な自然描写中、立体的な音場で迫りくる、音塊。そこに連なる、あくまでも“場の音”であり続ける音楽。
時に、演者の心象を語る、音とメロディーのコンクレート。
美麗なアコースティックな響きと、静謐なエレクトリックなサウンドの融合は、既にナチュラルに昇華されています。
「ミックスを手がけたエンジニアの友人が、この映画を見たとき、“あんなに長い時間をかけて音楽を作っていたはずなのに、音楽の時間が短かった”、“正味10分ぐらいしか音楽が無かった”という感想をもらったと(笑)実際は、2時間分はあったのですけれども(笑)風の音、水の音、ため息、どこからどこまでが現実音で、どこからが音楽なのか、判らなかったのではないかと思います。それを聞いて、僕達は“しめしめ”と(笑)」
そして、本試写会場では、なんと、本編における楽曲、メインテーマとサブテーマ、プラスもう1曲の劇中曲をピアノ一台で坂本さんが演奏するスペシャルな企画も!
4本のマイクで収音されたピアノの演奏は、用意された『Musik Electronic Geithain ME800K』から拡声されます。
通常のPAスピーカーではなかなか表現が困難な、坂本さんの静的なピアノの打音が、繊細に、美しく会場を満たします。
余りにもナチュラルなそのピアノの響き。
坂本さんの“音楽”が、ピュアに聴衆に伝わります。
僅か15分程度の、なんともゴージャスな時間。
なお、映画本編でのピアノの使用は控えめ、通常の使用外の、叩く、弦に触れる、押さえる等々の限られたアプローチで試みられたとのこと。
本編の出来上がりに関して、
「映画によっては、聴かせたい所の音量が小さくなっていたり、あるいは細かい所が聴こえなくなっていたりするのですが、今回はデカイ(笑)嬉しいといえば嬉しいのですが、ちょっとデカ過ぎじゃないかと心配したり(笑)」
とのコメント。
坂本さんは、今年に入って、9月公開予定の日本映画の音楽も完成させた、との情報も!
高い次元の作品制作の再開。
偉大な音楽家、坂本龍一。
これからの動きに、ますます期待!
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坂本龍一、『The Revenant』
ピアノ独奏ライブ機材レポート:
ピアノはYAMAHA。
その椅子の横に、2本の『Musik Electronic Geithain RL904』!
坂本さんが制作用スタジオで普段使いされている『RL904』が、モニター用に用意されました!
そして、ステージ横にメインスピーカーとして用意された同じくMusik Elektronic Geithain『ME800K』!
映画本編試写用ではなく、坂本さんのライブPAの為だけに用意されました!
ピアノにセットされたマイクは、3種のEarthworks。
ピアノ専用マイク『PM40T』、そして赤い『SR69』*2本はPA用。
『QTC40』*2本は、DSDレコーディング用!
PA席には、『Roland M380』。
補助レコーダーとして『ZOOM H6』がマイクスタンドに取り付けられてスタンバイ!
ここまでの機材でピンと来た方もいらっしゃるのでは?
そう、PA席には、間瀬哲史さん!
本当に素敵なライブでした!
あ、映画本編の音も、本当に凄かったですよ!←本編の映像表現は、いささかダイレクトな箇所も多々ございましたが(笑)
※追記:映画『レヴェナント:蘇りし者』2016年4月22日に公開。