ROLAND AIRA Modular チェックしてきました!
WEB担当の安藤です。
先日のフランクフルト・ムジークメッセでの個人的トピックの筆頭は、何と言ってもシンセサイザー界の巨人、ローランドのユーロラック参入でした。
ユーロラックとは、ドイツのメーカー“Doepfer(ドイプファー)”がリリースしたモジュラーシステム”A-100″シリーズが先駆けとなった規格です。
巨大なモジュラーシンセサイザーと同等以上の性能を持つ小さなモジュールは、EIA規格の3Uラックサイズをベースとし、電源も一般的なピンヘッダでの+/-12Vの供給で動作する汎用性に優れた製品であったため、互換モジュールを開発するメーカー/ガレージメーカーが続出したことによりデファクトスタンダードとなりました。
まだまだ一部マニアによるディープな世界ですが、昨今ではモジュラーシンセのイベントも定期的に開催され、往年のアナログシンセ愛好家だけでなく若い世代のクリエイターにも浸透しつつあります。現在では200を超えるブランドが林立し、様々な個性的なモジュールが揃う群雄割拠状態のユーロラック。ギター業界でいえばコンパクトエフェクター、レコーディング業界でいえばAPI500互換モジュールのアウトボードに通じる、今最も熱い世界なのです。
さてさて、そんなユーロラックへのローランドのアプローチとは?
AIRA SYSTEM-1m
既に発売中のAIRA SYSTEM-1のユーロラックモジュール版です。基本的な仕様はSYSTEM-1と共通で、単体のアナログモデリングシンセ音源として動作します。
ユーロラックモジュールとはいえ、ご覧の通りパネル裏は完全にカバーに覆われた構造で、電源も一般的なDC9VのACアダプター仕様となっています。もちろんUSBやMIDI端子、1/4″標準サイズのオーディオ出力も用意されており、EIA19インチ3Uサイズのラックマウントアダプターも付属していますから、一般的な音源モジュール同じ感覚で使用することが可能です。ユーロラック規格の電源フレームへは、付属の変換ケーブルを使用して電源を供給します。
これにより他のユーロラックモジュールと同様に、SYSTEM-1mをシステムに組み込むことができますが、84HPフルサイズ分のマウントスペースを占有してしまうため、美観上の強いコダワリが無い限りは独立して設置した方が、コストパフォーマンス的にはお勧めです。
いよいよ他のモジュラーシステムとのインターフェイス部分。
モジュラーシステムの信号は、スピーカーから音を聴くことができるオーディオ信号と、電圧の上下動によるコントロール信号(CV、GATE)に分けられます。広義の意味ではどちらも同じ電気信号なのですが、モジュラー初心者の方にとってはまずこの部分の理解と区別が最初のハードルではないかと思います。
SYSTEM-1mは、オーディオ信号の端子は赤、CV/GATE信号の端子は青、と明確に色分けされているので安心です。ご存知のとおり、AIRAシリーズはアナログシンセではなく、DSPによる完全デジタルのアナログ・モデリングシンセですから、19個用意された入出力端子には全て高精度な24bit/96KのAD/DAが搭載されており、アナログとデジタルの変換を行っています。
更に、プラグアウト機能を備えていますから、プラグアウト・ソフト・シンセSH-101やPROMARSとアナログ・モジュラーシステムとのインタラクティブなサウンドメイキングが可能になることも特筆すべき点といえるでしょう。鍵盤やアルペジエイターが省略されていますが、こうしたハードウェア的な追加によって価格はSYSTEM-1よりちょっと高くなる見込みですが、こればかりは仕方ありませんね。
ここからは、更にちょっとマニアックな部分を。
CV/GATE端子のレンジは+/-10Vとなっており、一般的なモジュラーシンセ/ビンテージシンセとの接続に問題はありません。GATE/TRIGのしきい値も+3Vですから、Doepferなど比較的低いゲート電圧(+5V)でもちゃんと動作しますのでご安心下さい。
ちょっと惜しいな、と思ったのは2基のオシレーター個別のピッチCV入力が用意されていないことと、CV入力にフィルターが入っており、オーディオ周波数の信号を突っ込むことによるFMが出来ないこと。外部のモジュールとの相互接続により様々なコントロール、音造りを楽しむことはもちろん可能ですが、あくまで基本はアナログモデリングシンセとして完結した音源という印象です。アナログモジュラーならではの凶悪な、常軌を逸した世界にはもう一息、という気がしますが、ユーロラックの入門機として非常に魅力的な製品です。
まずはこのSYSTEM-1mでDAWやハードウェアシンセと連携したシステムを構築し、物足りなくなってきたら是非モジュールを買い足してみましょう。貴方をディープなシンセサイズの世界へと誘う、ユーロラックへの橋渡しとなるステキな一台。
次にローランドのユーロラック互換モジュールです。
4種類のエフェクト・モジュール
今回、4種類のエフェクトモジュールも同時に発表されました。これがまたローランドらしい製品です。
それぞれディストーションの「TRICIDO」、ビットレート/サンプルレート・クラッシャーの「BITRAZER」、ディレイの「DEMORA」、ルーパー/スキャッターの「SCOOPER」。何れもユーロラックでは数少ないスタンドアロンのエフェクト・モジュールであり、様々なリアルタイム・パフォーマンスの可能性を高めてくれそうですね。このモジュール、中身は全てDSPの完全デジタル。基本機能はそれぞれ固有のものとなってはいますが、専用のエディターを接続することで、様々なカスタマイズが可能です。
エディター画面のパネル周囲には、6スロット分のブランクスペースが用意されており、ここに様々なモジュールをマウントすることができます。例えばディレイモジュールにフィルターを組み込み、ディレイ音をフィルタリングしていったり、LFOで周期的な変化を組み込んでみたり。MIDIクロックを扱うモジュールも用意されており、DAW内のテンポをそのまま、または分割してゲート信号として出力させることで、DAWのテンポと同期したシーケンスやモジュレーションなどの音作りも可能です。
ノブに重複してパラメーターをアサインすることも、入出力端子の信号をカスタマイズすることもできる、モジュール内の仮想モジュラーシステムです。
エディットした信号は、USB経由、またはREMOTE INに接続したオーディオ信号にてモジュール内のメモリーを書き換えます。
筐体は、SYSTEM-1mと同じく密閉式で、デスクトップでも使用できる仕様です。こちらも同じくDC9VのACアダプターで動作し、ユーロラックの電源バスとも付属の変換ケーブルを使用して接続することも可能です。USB端子はオーディオインターフェイスとしても機能しますが、フロントパネルに端子が無いため、クローズドタイプのユーロラックにマウントした場合は隙間を設けて引き回してあげる必要があるのはご愛嬌(笑)
↑他のユーロラック・モジュール群に違和感無く溶け込んでますね。
この、「モジュラー内モジュラー」とでも言うべきコンセプト、TC ElectronicのTonePrintと同様に、これからのエフェクターのトレンドになりそうな楽しくて便利な機能ですね。モジュラーシステムユーザーに限らず、ギタリストがエフェクトボードに組み込んでみても面白いかもしれません。
SYSTEM-500
これまでのDSP使用のデジタル・モジュールとは違い、こちらはガチのアナログ・モジュールです。モジュラーシンセのブランドMALEKKOとのコラボレーションにより実現したシリーズで、生産は設備の整った米国で行われるとの事です。開発中のプロトタイプのため撮影はNGでしたが、整然とした表面実装の基板、美しいパネルの仕上げはローランドブランドの名を冠する製品に相応しいクオリティでした。
ローランドのモジュラーシステムといえば、フラッグシップのSYSTEM-700、小型普及機のSYSTEM-100Mが代表格。今回、その中間という意味でのSYSTEM-500なのだとか。
2基のモジュールが横に並び、ノブとスライダーがバランスよくレイアウトされたデザインは、SYSTEM-100Mそのまんま。モジュール名も512、521、530、540、572・・・当時を知る方なら、下2ケタでどんなモジュールか直ぐに理解できますね。”582″シーケンサーも将来登場するのでしょうか(笑)。
一方で、黒いパネルやノブのデザインはSYSTEM-700へのオマージュ。エンベロープのMANUALボタンが赤ければ更に700っぽさは増しますね(笑)。あと、エンベロープのステータスを確認できるLEDインジケーターが是非欲しいところです。
まだ開発中で動作しない機能もあり、完全な状態でのチェックはできませんでしたが、この500シリーズ、ローランドさん本気です(!)。完全アナログの単体モジュール故、既にシステムを組まれている上級者向けの製品ですが、”581″キーボードとマルティプル付き電源フレームとの”Dセット”なんて展開も期待しちゃって良いですかローランドさん?
Roland goes Modular
ざっと見てきたローランドのユーロラック製品群。その何れもが実にローランドらしい、魅力に溢れたモデルです。新規ユーザーへの橋渡し(SYSTEM-100m)、足りない要素の補完(エフェクトモジュール4種)、ローランドにしかできないセルフオマージュ(SYSTEM-500)。ユーロラックの世界を益々面白くしてくれるであろう一連の製品から、目が離せません!