ヴィンテージMinimoogと動画で比較!Roland SE-02実機レビュー
過去の名機をサウンド・デザイン含め忠実に再現し、超コンパクトな筐体に纏め上げたRoland Boutiqueシリーズ。まるでアナログ音源かと錯覚する程の本家ならでの完成度の高さは改めてここで説明する必要も無いでしょう。
しかし、ここに来て同シリーズの展開に異変です。自社製品のリバイバルが続いていた流れとは別に、外部のメーカーとのコラボレーション&フルアナログ音源搭載、そして何と言っても「あの名機」を彷彿とさせるデザインを引っさげて登場したBoutique Designerシリーズを名乗る「SE-02」。
全てが予想を超える、規格外の一台・・・その実力を早速チェックしてみました。
Studio Electronicsとのコラボレーション
SE-02は、心臓部であるアナログ音源回路の設計を米国Studio Electronics社が担当しています。同社はかつてProphet-5やOberheimのポリシンセ、そしてMinimoogやTR-808等のヴィンテージ機材のラックマウント化改造からスタートしたメーカーです。特にMinimoogのラックマウント版「MIDIMINI」はオリジナルMinimoogの入手が困難になった段階で、自社製の音源基板を製造。忠実なMinimoogクローン音源として大ヒットを記録しています。また、このMinimoogの音源回路を基本に各種機能を追加、フルプログラマブル化を実現した音源モジュール「SE-1」も初期の代表作の一つ。同モデルはその後、メモリーを拡張した「SE-1X」に進化し、更なるロングセラーを記録しました。
Studio Electronics MIDIMINI(生産完了)
Studio Electronics SE-1X(生産完了)
その後もカートリッジ式のフィルター差し替えにより多彩なサウンドを実現したATC-1、ポリフォニック化を実現したOmega/C.O.D.E.シリーズ、更にはユーロラック規格のモジュラーシンセサイザーに至るまで、「Premium Quality Analog」のコンセプトに沿ったシンセサイザーを意欲的に生み出し続けています。
Studio Electronics社の魅力は、高価で入手困難なヴィンテージパーツに頼ることなく、現代的なコンポーネントで往年のヴィンテージアナログシンセのサウンドを再現するノウハウを持っている点。その技術力は勿論、オリジナルのサウンドと動作を熟知した経験と耳があるからこそ、このクオリティが生まれるのです。
■Studio Electronics現行製品はこちら
Roland SE-02
SE-02は、こうしたアナログ音源の設計をStudio Electronics社が担当、その他のメモリーやステップシーケンサー等のデジタル領域をRolandが担当しています。それぞれの得意分野を活かす、正に夢のようなコラボレーションではないでしょうか。
そしてその名称、そして外観からは、前述の”SE-1″の発展系/後継モデルとしての位置づけが連想されます。そして、そのSE-1の設計の基本となったシンセサイザーといえば、ご存知“Minimoog”。これはもう、直接比較してみるしかありませんね(笑)。
SE-02のコンパクトさが実感できますね。
Minimoog vs SE-02
そんな訳で、オリジナルのMinimoog(後期型・スタッフ私物)とSE-02を並べて比較です。Minimoogに準じた3オシレーターのパネルがぎゅっと小さくなったそのルックスは非常に魅力的。今回はMIDIキーボードを接続、パッチモードで右端の「MANUAL」ボタンを押してチェックしています。
Boutiqueシリーズならではのサイズ感に最初は戸惑いますが、オシレーター、フィルター、そしてエンベロープの主要なノブやスイッチの位置関係はMinimoogそのもの。慣れてしまえば、これはこれで楽しい操作感ですね。
「Minimoogっぽい音」といえば色々ありますが、今回は試しにシンセベースと5度で重ねてスウィープさせたリードを比較してみましょう。
Synth Bass
某シンガーのあの曲っぽいベースラインです(笑)。ふくよかでブリッとした音圧感、ベンドやモジュレーションで揺れる感、SE-02もニュアンスが良く出ていますね。
5th Lead
敬愛するキーボーディスト、小川文明氏へのリスペクトを込めたフレーズにて。粘っこく追従するグライドやフィルターが開く感じに注目です。SE-02の方がグライド(ポルタメント)MAXでのタイムがやや長めなので、このツマミを演奏しながら回す場合は注意が必要です。
今回、ざっくりとノブを同じ位置に設定し、その後モニタースピーカーの音を聴きながら微調整した程度のため、「完璧に同じ音」を狙って作りこんだ訳ではありません。しかし、パッと聴いた印象ではかなりMoogっぽい雰囲気が出ており、何よりノブを廻した際の出音へのレスポンスの心地よさは、まるでMinimoogを触っているかのような印象さえ受けました。
但し、SE-02のチューニングは非常に安定しており、スケール/オクターブ等も超正確。MIDI音源としての実用性は申し分ない訳ですが、もう少しあいまいな部分を残してくれた方が味わい深いのになぁ、と思ってしまうのは贅沢でしょうか。
こうした部分が影響しているのか、厳密に比較してみると、SE-02の方がサウンドの各所にややエッジが立った印象を受けます。まだ新品で角が取れていない感と言えば良いのでしょうか。微々たる違いですが、オケの中では逆に抜けが良く扱いやすいかもしれません。勿論、オリジナルMinimoogも各部の経年変化や調整具合等により個体差がありますので、完全なリファレンスではない旨、ご了承ください。
それだけじゃない!
勿論、SE-02は単なるMinimoogクローンではありません。SE-1の魅力的なサウンドを生むポイントである、クロスモジュレーション(XMod)とオシレーターシンク、SE-02にもちゃんと実装されています。
クロス・モジュレーションはビブラート用のLFOではなく、オシレーターのオーディオ信号によって各種パラメーターを変調する機能です。専用LFOの無いオリジナルMinimoogはオシレーター3をLFOとして使用しますが、周波数を上げていくとオーディオ周波数での変調(FM)となり、金属質でノイジーな倍音が生成されます。こうした使い方を発展させたSE-1及びSE-02のクロス・モジュレーションは、フィルターのカットオフに加え単体のオシレーターやパルスワイズをFMすることが可能、より複雑な倍音を生み出すことができるだけでなく、全オシレーターにFMを掛けたり、リングモジュレーター等の変調を行う場合だと失われがちな「音程感」を維持することも可能、より音楽的な暴れ方を演出することができるのです。
更に、オシレーター2のピッチを強制的にオシレーター1のピッチに同期させる「オシレーター・シンク」は、特にピッチが大きく異なる場合に独特の倍音が生まれます。オシレーター2のピッチをエンベロープやLFO等でコントロールすると非常に効果的。オリジナルMinimoogでは改造しなければ実現しなかった機能ですが、後のMoog ProdigyやOberheim SEM、そしてProphet-5等のヴィンテージシンセのトレードマーク的とも言えるこのサウンドが生み出せるのは嬉しいポイントです。
そして、外部入力に出力信号をフィードバックさせてブリッと歪ませるシグナルパスも勿論搭載されています。先日復刻されたMinimoog Model Dと同様に、このフィードバックパスはかなり高いレベルまで上げることが出来るので、オリジナル感覚でいきなり全開にするとちょっとビックリします(笑)。本来は、歪むか歪まないかギリギリのポイント辺りが美味しいのですが、全開付近の破綻したサウンドはキック等の素材にも使えそうですね。
今回、内蔵シーケンスを使って、マニュアルモードで一発録りしてみました。Moogらしいサウンドに、SE-02ならではの機能も各種使っています。ディレイ実装も嬉しいポイントですね。
そのサウンドクオリティ、ちょっと小さいながらもツマミに対するダイレクトな反応、更に所有欲をくすぐるパネルデザイン。これだけでも充分魅力的なのに、Boutiqueシリーズならではのステップシーケンサーや音色メモリー、USBからCV/GATEに至までの新旧インターフェイスの搭載・・・RolandとStudio Electronicsのコラボレーションは死角無しの傑作シンセを誕生させました!
ちなみに、SE-02は存分にコンデンサーへの充放電をバツバツ行い、トランジスタやFET等を使ったディスクリート回路でサウンドを生み出す、クラシックな設計の純粋なアナログシンセサイザー。何よりサウンドを最優先した結果、これまでのBoutiqueシリーズでは可能だった電池での駆動には対応しておりません。使っていると本体もちょっと熱を持ちますが、こうした部分でさえもピュアなアナログシンセを触っている実感が沸いてくるのではないでしょうか。
別売オプションのキーボードK-25mにも勿論搭載可能、堪らなく愛おしい佇まいです。周囲に木目調シートを貼ったら完璧ですね(笑)。
これだけ男気溢れるディスクリート・アナログ回路のシンセサイザー、しかもローランドとスタジオ・エレクトロニクス社のダブルネーム。そしてこのルックス&サウンド。当然ながら生産数もローランドのデジタル製品に比べたら小ロットの生産となることでしょう。様々なジャンルのクリエイターにとっても感涙モノ、ヴィンテージシンセ愛好家にとってもジェラシーを感じる完成度のリアルアナログ・シンセサイザー。是非手に取ってその質感をお楽しみください。