【新製品レビュー】Roland TR-08 & SH-01A ~オールドスクールかつ成熟した電子楽器~

昨年、9月9日は”909 Day”として、ローランドより様々な新製品が怒涛の如く発表されました。その中でも、”Boutique”シリーズからTR-909(TR-09)、TB-303(TB-03)、VP-330(VP-03)という、「テクノ三種の神器」とも言うべきレジェンド達が復活を遂げ、世界中で熱狂的に受け入れられたことは記憶に新しいところです。

そして本日、2017年8月8日。”808 Day”とも言うべきこの日、更なるレジェンドの幕が上がります。

はい、もう細かい説明は不要ですね(笑)。


Roland Boutique Series TR-08

テクノ・ミュージックを語る上でTR-909と並んで欠かせないリズムマシン、TR-808が復活です。

当時、ローランド最高峰のモジュラーシンセサイザー”System-700″を使って作られたサウンドの要素を落とし込んだと言われるTR-808の各パートは、全てオシレーターの発振音やノイズをフィルター等で加工して作られた完全アナログ回路。PCM音源とは全く異なる、豊かな低域や軽快なトーン、”PPAP”で再びブレイクした(笑)カウベルに代表される、妙に印象に残る「リアルじゃない」サウンドは、今も昔もエレクトロニック・ミュージックに欠かせない要素と言えるでしょう。

 

TR-08は、こうしたアナログ音源のサウンドを、根本の回路自体の振る舞いまで遡ってモデリングする”ACB”テクノロジーにより忠実に再現したリズムマシンです。

 

・・・ちょっと待てよ?

 

ACBテクノロジーを使ってTR-808の挙動&サウンドを再現したリズムマシンといえば、既に発売されていますよね・・・?

Roland AIRA series TR-8

 

808/909系サウンドとステップ入力メソッドによるパフォーマンスを現代的な環境で実現したTR-8。先鋭的なデザイン、拡張&改良されたインターフェイス等、ツールとしてはほぼ完成形と言える傑作リズムマシンです。

 

しかし、今回のTR-08はちょっと方向性が異なります。基本的な音源やシーケンサー等の制御部は基本的にTR-8のそれを受け継いでおり、正直なところサウンド面で目新しい部分はありません。

 

が!

ご覧くださいこのパネル。トップ面にシボ加工が施された大きなテンポダイヤル、カラフルなオレンジ系のボタンやノブ、赤く華奢なパターンクリアボタンや銀色のトグルスイッチ、レタリングのフォントや色味、そして微妙に黄ばんだスタート/ストップボタン(!)。

・・・完璧です。

昨年のTR-09やTB-03同様、もはや悪ノリ(笑)レベルの忠実な再現度。もちろんオリジナル同様の操作で、流れるようにパターンクリアからのステップ入力でのパターン構築パフォーマンスをキメることができます。

各パートのコントロールやその可変範囲は基本的にオリジナル準拠のシンプルなもので、TR-8に比べてよりストイックな仕様です。但しバスドラムだけは「ムーン」と伸びる、腹に響く余韻を楽しめるレベルまでディケイが伸びています。いわゆる「ディケイ伸ばし」ですね。ボリュームコントロールもオリジナル同様の小さなツマミとなっており、リアルタイムでの抜き差し等はちょっと苦労しますが、二時半付近に示されたオレンジ色の「・」ガイドが泣かせます。この位置を越えて全てのパートを全開に設定すると飽和してくる印象のサウンドはACBの本領発揮、といったところでしょうか。

更に、オリジナルの外観を損なわない絶妙なさじ加減でBPM表示やシャッフル、トリガー出力トラックや各種サブメニュー等の新機能がブレンドされており、単なるミニチュア808に留まらない可能性が見て取れます。

背面のインターフェイスは至ってシンプル。USBはバスパワーでの電源供給に加え、他のBoutiqueシリーズと同じくオーディオ・インターフェイス機能も装備されていますので、DAW環境との接続はUSBケーブル1本という非常にシンプルなセッティングが可能です。


TR-08と同時に発表された、もう一台のBoutique Seriesがこちら。

Roland Boutique Series SH-01A

・・・もう完璧(笑)。パネルの色味、フォント、ツマミやボタン類のデザインまで、傑作アナログ・モノフォニックシンセサイザー「SH-101」そのものです。

1982年に発売されたSH-101。1VCOのシンプルなアナログシンセですが、1オクターブ/2オクターブ下の矩形波を重ねるサブオシレーターや明るくエッジの効いたサウンドを持ち、アナログシンセの入門機として通信教育の教材としても、当時手にした人の多い名作です。更に、底板を除きプラスチック製の筐体による軽量設計、電池駆動対応、そしてオプションのモジュレーション・グリップ&ストラップピンを追加することでショルダー・キーボードとして演奏できる点も画期的な一台でした。

こちらもACBテクノロジーを駆使したプラグアウト・シンセサイザーとして既にリリースされており、そのサウンドに馴染みのある方も多いかと思います。

SH-101 PLUG-OUT

やはり、SH-01Aはオプションのキーボードユニット”K-25m”にマウントした姿がしっくり来ますね。文句なく可愛いです。

あえてパネルを起こさないで使いたいものです。欲を言えば、ピッチベンド&モジュレーションをコントロールできるBoutique Series用モジュレーショングリップ&ストラップピンが欲しい!

お手本の様にシンプルな構成故、複雑な音色を作り込むことに向いていないのはオリジナル同様ですが、「HOLD」ボタンで簡単にラッチできるアルペジエイターやステップシーケンサーでパターンを鳴らし、ピコピコと音色変化をまずは楽しみたいところです。特筆すべき個性があるサウンドではありませんが、特に上モノシーケンス用途において、直ぐに狙った音が作り出せる非常に便利な一台です。

ステップシーケンサーはレガートや休符情報の入力も可能なため、躍動的なフレーズを生み出すことができますが、どれだけレゾナンスを挙げても303的なベースラインにはなりません。そこはまぁ、適材適所でありますから。

単3電池×4本で駆動するお手軽設計、更にUSBバスパワー対応。TR-08/SH-01A共に、Andoroid用のモバイルバッテリーでも電源を供給して使用することができました。何れも底面に小型スピーカーが用意されているので、外出先でのちょっとした確認にも便利です。勿論、Boutique Series本来のサウンドを体感するには、ちゃんとしたモニタースピーカーで聴くことが必須ですが(特にTR-08のキック!)。

更に!今回SH-01Aはノーマルタイプのグレーのみですが、オリジナル同様に「レッド」「ブルー」のカラーバリエーションモデルが予定されているとのこと!これは訳もなくコンプリートしたくなる物欲刺激アイテムです。発売の暁には、同色のグリップ&ストラップピンのオプションもお願いしますローランドさん(笑)!

 

 

Roland Boutique Series

今回発売の2モデルも、サウンド・機能的には従来の製品でほぼ完成形に達している往年の名作の復刻(+α)となり、スペック面において特筆すべき点はあまり存在しません。しかし、本シリーズのポイントはそこではなく、ハードウェア楽器の操作、システム構築そのものを楽しむための趣味的な要素が全面にフィーチャーされたシリーズだと思います。

これを「懐古趣味」と言ってしまうのは簡単です。「温故知新」という言葉も既に使い尽くされた感すらありますが、ローランド以外にもコルグのVOLCAシリーズやヤマハのRefaceシリーズ、更には世界中で盛り上がるユーロラック規格のモジュラーシステム等、スペック競争とは別時限のシンプルで単機能なガジェット的製品の充実ぶりは、電子楽器という存在が完全に成熟してきた証と言えるのではないでしょうか。

絶え間ない開発競争、新技術の投入により肥大化していく電子楽器やDAW等の音楽制作環境。当然その恩恵は非常に大きく、ソフトウェアだけで商業レベルの音楽制作が可能となって久しい現在。

効率的で便利なツールの実用化により、湧き出るアイディアをストレスなく作品としてアウトプットできること。クリエイターにとって、これ程素晴らしいことは無いでしょう。

 

一方、エレクトロニック・ミュージックに代表される一部の音楽においては、こうした「何でもできる便利なツール」は「クリエイティビティ」と決してイコールではないことにお気付きの方も多いかと思います。

フレーズをループする内に閃く展開、偶発的にシーケンサーから吐き出されたフレーズや意図しないサウンドから生まれる名曲。多くの楽曲/パフォーマンスにおいては、その機材そのものの存在がきっかけとなって創造がスタートしています。こうした過程を追体験し、インスピレーションを受け、そしてそれを形にするための知識と技術を磨く楽しさ。

その結果がたとえDAWで組まれたサウンドと大きな違いは無かったとしても、決して遠回りしている訳ではないことはご理解頂けるでしょう。

 

とはいえ往年の機材は状態の良い個体を手に入れること、またその状態を維持することはこうしたクリエイティビティとはまた別の話です。一部の機種は既に補修部品の入手も困難であり、ヴィンテージ機材を使った音楽制作システムのスタートラインに立つためのハードルは今後も高くなっていくでしょう。

Roland Boutique Seriesはそうしたヴィンテージ機材のサウンドと操作性、そして高揚感をもたらすビジュアルを忠実に再現しつつ、高い信頼性と圧倒的なスペース効率とコストパフォーマンス、そしていざという時の現代的なソリューションをも内包した、オールドスクールかつ成熟した電子楽器なのです。是非往年の名機と同様に、機材との対話を楽しんでください。



Boutique Series TR-08
想定価格:¥50,000円前後(税込)
【9月下旬発売予定】


Boutique Series SH-01A【各種】
想定価格:¥50,000円前後(税込)
【9月下旬発売予定】


関連リンク

■ヴィンテージMinimoogと動画で比較!Roland SE-02実機レビュー

■Roland Boutique Series徹底チェック(TR-09/TB-03/VP-03)!

■Roland Boutique Seriesショッピングページ

 

おすすめ記事はこちら>>

PAGE TOP